ザッーザッー、
パキッパキッ、
あー、またキノコ狩りの季節が来たと思った。
どうやら我が家の周りには、美味しいキノコがあるらしく、
梅雨時や秋の長雨の頃、
キノコ狩りの人たちがやってくる。
家の周りに玉砂利を敷き、
それを踏み締める音で防犯対策になると聞いたことがある。
うちの周りは、膝丈ほどの熊笹と落ち葉や枯れ枝で覆われ、
それと同じような役目を果たしている。
夏は家中の窓を網戸にして、
森の天然クーラーを享受しているので、
その時も、作業部屋から外の音がよく聞こえた。
ザッー、パキッパキッ、
ザッーザッー、
何気なく音のする方を見るが、何も見えない。
でも、その音はどんどん近づいてきた。
キノコ狩りの人ではなく、動物か…
作業の手を止め、音のする方を見入っていると、
10mほど離れた木に何か黒い物体が登っていった。
???
1〜2秒の出来事。
えっ、そんなに早く木登りできるの?
???
クマ…だったよね?
自分の視覚をおさらいする。
…クマ、…だね。
そーっと静かに別の部屋にいた相棒を手招きする。
ここに住むようになって、そんな動物との遭遇を
幾多繰り返してきた私たちは、
相手の表情や仕草を心得ていて、
相棒はスマホ片手に抜き足差し足やってきた。
さらに忍び足で、ウッドデッキに出る。
「クマがいる、子熊だな…」
小声でそう伝えると、相棒はスマホを構えた。
木の上の方でガサガサ音はするけれど、
葉に覆われて良く見えない。
ただ遊んでいるのか、何か食糧があるのか、
5分ほど上にいる間、私たちはずーっと見守っていたが、
その子熊を見守っているのは、どうやら私たちだけではないらしい。
ザッー、ザッー、バキッ、バキッ
穏やかに見守る両者に流れる不穏な気配。
姿こそ見えないけれど、親熊らしき気配を察し、
私たちは、木登り子熊と見えない見守り親熊に注意する。
と、無邪気に遊んでいた子熊がヒョイヒョイ下りてきて、
さらに私たちに近い木に登り始めたとき、こっちを見た。
私たちと目が合った後、子熊は親熊がいるであろう方向を見た。
きっと親熊と目配せし、「そろそろ行きましょう」と言われたのだろう。
木の半ばでソロソロと下りてきて、
そのまま茂みに消えていった。
野生のクマを初めて見たのは、20年程前の北海道。
「60年ここに住んでるけど、一度も見たことが無い。」
そう地元の農家の方が言うなか、
私は一年足らずでクマに遭遇した。
野生のクマに遭遇したのは、4回目。
初めて動画に収めた。
今年は、クマの食糧となるブナの実が不作らしく、
全国各地でクマの目撃情報のニュースを見る。
福島県内でも、登山者が出会しケガをしたり、
自動車との接触事故もあったようだ。
クマと出会ったり、クマ出没のニュースを見ると、
写真家で冒険家でもあった星野道夫の言葉を思い出す。
アラスカなど各地でクマの写真を撮り、
ロシアでヒグマに襲われ43歳の若さで亡くなった。
基本的に熊は人間を襲いたいと思っていないし、できたら避けたいと思っている。
人間を怖いとすら思っている。
銃を持って行くということは、変に自然に対し大胆になるし、あまり考えなくなる。
けれど、銃を持っていない時は色んな事を考えるし、自然に対し謙虚になれる…と。